x402とは?HTTPネイティブな決済プロトコルの全貌
HTTPステータスコード402を活用したx402プロトコル。アカウント不要・DB不要のAPI課金を実現する次世代Web決済の仕組みを解説
はじめに:HTTPには「支払い」のステータスコードがある
知ってた?HTTPには最初から 402 Payment Required というステータスコードが予約されている。
1997年のHTTP/1.1仕様から存在するのに、約30年間ほぼ使われなかった。理由は単純で、当時は「HTTPリクエストに対してシームレスに支払いを行う」インフラが存在しなかったからだ。
クレジットカードは手数料が高い。最低決済額がある。アカウント登録が必要。チャージバックのリスク。とてもじゃないが「1リクエスト0.01ドル」みたいなマイクロペイメントには使えない。
そして2025年、Coinbaseがこの眠れるステータスコードを叩き起こした。それが x402 だ。
x402とは
x402は、HTTPプロトコルにネイティブな決済標準だ。
サーバーがリソースへのアクセスに支払いを要求するとき、HTTP 402レスポンスを返す。クライアントはそのレスポンスに含まれる支払い情報を読み取り、暗号通貨(主にステーブルコイン)で支払いを行い、再度リクエストする。たったこれだけ。
クライアント → GET /api/weather → サーバー
クライアント ← 402 Payment Required ← サーバー
(支払い先アドレス、金額、対応チェーン等の情報)
クライアント → GET /api/weather + 支払い署名 → サーバー
クライアント ← 200 OK + データ ← サーバー
アカウント登録不要。APIキー不要。DB不要。
Coinbaseが開発し、オープンソースとして公開。2025年9月にはCloudflareと共同で x402 Foundation を設立し、標準化を推進している。
サーバー側の実装:たった1行
Express.jsの場合、ミドルウェアを追加するだけ:
import { paymentMiddleware } from "@x402/express";
app.use(
paymentMiddleware({
"GET /weather": {
accepts: [
{
scheme: "exact",
network: "base",
maxAmountRequired: "0.01", // USDC
resource: "https://api.example.com/weather",
description: "Weather data",
}
],
},
})
);
これだけで /weather エンドポイントにアクセスするたびに0.01 USDCの支払いが必要になる。支払いがなければ自動的に402を返し、支払いが確認されればリソースを返す。
クライアント側の実装
import { wrapFetch } from "@x402/fetch";
const x402Fetch = wrapFetch(fetch, wallet);
const response = await x402Fetch("https://api.example.com/weather");
通常の fetch をラップするだけ。402が返ってきたら自動で支払い→リトライしてくれる。
技術的な仕組み
フロー詳細
x402の決済フローには3つの主要アクターがいる:
- クライアント — リソースにアクセスしたい側(人間 or AIエージェント)
- リソースサーバー — APIやコンテンツを提供する側
- ファシリテーター — 支払いの検証・決済を仲介するサーバー
┌──────────┐ ┌──────────────┐ ┌──────────────┐
│ Client │ │ Resource │ │ Facilitator │
│ │ │ Server │ │ │
└────┬─────┘ └──────┬───────┘ └──────┬───────┘
│ GET /resource │ │
│─────────────────>│ │
│ 402 + 支払情報 │ │
│<─────────────────│ │
│ │ │
│ GET /resource │ │
│ + 支払い署名 │ │
│─────────────────>│ │
│ │ POST /verify │
│ │───────────────────>│
│ │ 検証結果 │
│ │<───────────────────│
│ │ POST /settle │
│ │───────────────────>│
│ │ 決済結果 │
│ │<───────────────────│
│ 200 OK + data │ │
│<─────────────────│ │
重要なのは、クライアントは秘密鍵でトランザクションに署名するだけで、実際のオンチェーン決済はファシリテーターが行うということ。クライアントはガス代やRPCノードのことを一切考えなくていい。
支払いスキーム
x402は「スキーム」という概念で支払い方法を抽象化している:
- exact — 固定金額の支払い(「この記事を読むのに$0.01」)
- deferred — 後払い・バッチ決済(Cloudflareが提案中。クロールの従量課金等)
- upto — 上限付き従量課金(「LLMのトークン数に応じて最大$1まで」)※構想段階
最初にリリースされた exact スキームでは、EVM上で EIP-3009(transferWithAuthorization) を使っている。これはクライアントがオフチェーンで署名し、ファシリテーターがオンチェーンで実行するパターンだ。
対応チェーン・トークン
現時点で対応しているのは:
| チェーン | トークン | 備考 |
|---|---|---|
| Base | USDC | メインのサポート対象。L2なのでガス代が安い |
| Ethereum | USDC | ガス代が高いのでマイクロペイメントには不向き |
| Solana | USDC | SVMスキームとして対応 |
| Arbitrum | USDC | EVM互換 |
SDK的には @x402/evm(EVM系チェーン全般)と @x402/svm(Solana)が提供されている。原則として チェーン・トークン非依存 を掲げており、将来的にはフィアット(クレジットカード・銀行振込)への対応も視野に入れている。
従来の決済手段との比較
従来のAPI課金フロー
- プロバイダーのサイトでアカウント作成
- KYC(本人確認)を通す
- クレジットカードを登録
- クレジットを購入 or サブスクリプション契約
- APIキーを発行・管理
- やっとAPIが使える
ステップが多すぎる。
特にAIエージェントにとっては致命的だ。エージェントはアカウントを作れない。KYCを通せない。クレジットカードを持っていない。
x402のフロー
- HTTPリクエストを送る
- 402が返ってくる
- ステーブルコインで支払う
- データが返ってくる
以上。
| 項目 | 従来(Stripe等) | x402 |
|---|---|---|
| アカウント | 必須 | 不要 |
| KYC | 必要な場合あり | 不要 |
| 最低決済額 | ~$0.50 | 実質なし(ガス代のみ) |
| 手数料 | 2.9% + $0.30 | ガス代のみ(Base上で~$0.001) |
| 決済速度 | 数日(チャージバック期間含む) | 数秒 |
| プロトコル手数料 | あり | ゼロ |
| エージェント対応 | 困難 | ネイティブ対応 |
| 導入の手間 | SDK統合 + ダッシュボード設定 | ミドルウェア1行 |
ユースケース
1. API課金(最も明確なユースケース)
天気API、翻訳API、画像生成API…あらゆるAPIをリクエスト単位で課金できる。サブスクリプション不要、前払い不要。
GET /api/translate?text=hello&to=ja
→ 402 Payment Required ($0.001)
→ 支払い
→ 200 OK {"result": "こんにちは"}
2. AIエージェント間決済
ここがx402の キラーユースケース だ。
エージェントAがデータを必要とする → エージェントBに402で支払う → エージェントBがデータを返す。人間の介入ゼロ。
エージェントA(データ分析): 「AAPLの株価データが欲しい」
エージェントB(データ提供): 「402 Payment Required $0.20」
エージェントA: [支払い]
エージェントB: [データ提供]
これが連鎖すると、エージェントCがエージェントAの分析結果を$0.50で購入し、レポートを生成してエージェントDに$1.00で販売する…というように、自律的な経済圏が生まれる。
3. コンテンツペイウォール
記事やメディアへのマイクロペイメント。月額サブスクの代わりに、1記事$0.05で読める。
4. Webクローリングの従量課金
Cloudflareが提案している pay per crawl がまさにこれ。AIクローラーがWebサイトをスクレイピングする際に、ページ単位で課金する。
5. 分散コンピューティング
推論、レンダリング、ストレージなど、コンピュートリソースの利用をリクエスト単位で課金。
対応SDK・フレームワーク
TypeScript(メインのエコシステム)
# サーバーサイド
npm install @x402/express # Express用ミドルウェア
npm install @x402/hono # Hono用ミドルウェア
npm install @x402/next # Next.js用
# クライアントサイド
npm install @x402/fetch # fetch wrapper
npm install @x402/axios # axios wrapper
# コア
npm install @x402/core # プロトコルコア
npm install @x402/evm # EVM チェーン対応
npm install @x402/svm # Solana 対応
# その他
npm install @x402/paywall # ペイウォールUI
npm install @x402/extensions # 拡張機能
Python
pip install x402
Go
go get github.com/coinbase/x402/go
メリット・デメリット
メリット
- 圧倒的に低い導入障壁 — サーバー側1行、クライアント側1関数
- マイクロペイメント対応 — $0.001単位の課金が現実的
- ステートレス — 各リクエストが独立。セッション管理不要、DB不要
- エージェントネイティブ — AIエージェントが自律的に支払いできる
- オープンスタンダード — Coinbase主導だが、特定企業にロックインしない
- プロトコル手数料ゼロ — ネットワークのガス代のみ
- HTTPネイティブ — 既存のWeb技術スタックにそのまま載る
デメリット
- 暗号通貨が前提 — 現時点ではステーブルコイン(主にUSDC)での支払いのみ。フィアット対応は将来の話
- ウォレットが必要 — クライアントは暗号通貨ウォレット(秘密鍵)を持っている必要がある
- エコシステムの成熟度 — まだ初期段階。本番環境での大規模採用例は少ない
- 規制の不確実性 — 暗号通貨決済に対する各国の規制が流動的
- ファシリテーターへの依存 — 決済処理にファシリテーターが必要(ただし自前で建てることも可能)
- UX — 一般ユーザーにとっては「ウォレット接続して暗号通貨で支払い」はまだハードルが高い
現在の採用状況
x402.orgの統計(2026年2月時点):
- トランザクション数: 7,540万件以上
- 取引量: $2,424万以上
- バイヤー: 94,000以上
- セラー: 22,000以上
主な動き:
- Coinbase — プロトコルの開発・メンテナンス、ファシリテーターサービス提供
- Cloudflare — x402 Foundationの共同設立。Agents SDKやMCPでのx402対応。pay per crawlの実装
- thirdweb — x402対応のドキュメント・ツール提供
- QuickNode — x402チュートリアル・インフラ提供
まだ「初期のアダプター」段階だが、CloudflareとCoinbaseという巨人が後ろにいるのは心強い。
実践的な視点:Katteguchi.linkでの活用を考える
個人的に、Katteguchi.linkでx402の採用を検討している。
考えているユースケース:
- APIエンドポイントの従量課金 — サブスクリプションではなく、使った分だけ
- プレミアムコンテンツへのマイクロペイメント — 1回アクセスごとに数セント
x402の魅力は「ユーザー管理が一切不要」なこと。ユーザーテーブルもセッション管理もいらない。HTTPリクエストに支払い情報が含まれているかどうか、それだけ。
バックエンドがExpressなら本当にミドルウェア1行で済むし、Next.jsにも @x402/next がある。試す価値は十分にある。
まとめ
x402は、30年間眠っていたHTTP 402ステータスコードに命を吹き込んだプロトコルだ。
- HTTPネイティブ — 既存のWebインフラにそのまま載る
- ステートレス — アカウントもAPIキーもDB不要
- マイクロペイメント — $0.001から課金可能
- エージェント対応 — AIエージェント同士の自律的な経済活動を可能にする
- オープン — 特定企業にロックインしない
Web3的な文脈で語られがちだが、本質は 「HTTPに決済レイヤーを追加する」 というシンプルな話だ。
インターネットの「原罪」——コンテンツに対して直接支払う仕組みがなかったこと——を、x402は解決しようとしている。だからこそ広告モデルが支配的になり、個人情報が通貨になった。x402が普及すれば、もっとシンプルで健全なWebが実現するかもしれない。
まだ初期段階だが、Coinbase + Cloudflareという組み合わせは強力だ。今のうちに触っておいて損はない。
参考リンク: